2014年6月24日火曜日

故ロジャー・アックリング 親友リチャード・ロングからの追悼文

今月5日に私や多くの友人たちの恩師であるロジャー先生がお亡くなりになられた。Von Lintel Galleryのオーナーさんの弔いの言葉によるとALS(筋萎縮性側索硬化症)と勇敢に戦った後に安らかになくなったそうだ。流木にレンズで刻印をつける作品で知られているランドアートの芸術家であり、近年ではチェルシー芸術大学でのチューターなど長年に渡ってイギリスのアート教育に多大な貢献をされた方。親友のリチャード・ロング氏の書かれた文章が6月19日付けのTHE INDEPENDENTのインターネット版にあったので訳した。以下原文




ロジャー・アックリング:太陽の光をレンズで集めて流木に刻印し、まるで禅のような静かな作品をつくる芸術家


Roger was a very original artist and a great teacher    Nick Rees



私(リチャード・ロング)がロジャー・アックリングに出会ったのは1968年。私がセントマーティンス芸術大学(St Martins)にいた最後の週だった。私たちはそれぞれ違う学科にいた。後に今まで出会った中での最高の友人になった。


彼が私に最初に聞かせてくれた作品はコーンウォール(Conrwall)へのドライブというアイデイア(たぶん)だった。鉛筆を輪っかの上、道の上に走らせる、そして同じルートをケシゴムを走らせながら帰ってくる。輪っかとペーパークリップは彼の初期の作品で非常に重要だった。


彼の父親はワイト島(isle of Wight)でホテルを経営していた 。そこはフォルティタワーズ(Fawlty Towers)の原作になった場所であり、私は何度も行ったがとてもたのしく訪問させてもらった。数年後にフランスを縦断する自転車旅行に2人で出かけたが行程の半分のところで彼のサッカーで出来た古傷が悪くなったので旅を終えた。ロジャーはとてもスポーツ万能だった。非常にすばらしい卓球のプレイヤーであり、スヌーカーの試合が好きだった。


これまで彼は、ウィンブルドン芸術大学Wimbledon School of Art)で教鞭を取っており、彼に誘われて生徒たちとハドリアヌスの長城(Hadrian’s Wall)を歩いたことがある、そこでビル・ウッドロー(Bill Woodrow)やトニー・クレッグ(Tony Cragg)に初めて会った。他の生徒の一人であるジョン・オールデン(John Haldane)はセント・アンドルーズ大学(St Andrews University)の哲学の教授である。ロジャーは偉大な教育者だった。数世代にもわたって生徒たちは彼の温かさ、寛容さ、機知の恩恵を受けた。




One of Ackling's pieces. He marked the wood without touching it, producing his works as a form of meditation

彼は家の近くの北ノフォークの海岸で集めた木片にレンズをかざし、太陽光線をラインとして刻印し控えめで規則正しい作品をつくった。彼は木に触れずに刻印を入れた。彼は禅のような静けさと集中とともにまるで「瞑想」のようなそれらの作品を作った。


ロジャーにはすばらしいそして献身的な妻であるシルヴィア(Sylvia)がいる。彼らは大旅行を共にしたが特に日本へも行った。そこでは彼の作品はより評価された。彼らと行った幸福な旅の一つとして、一週間のニューヨーク旅行がある。ロジャーと私は共同作品の展示を行った:彼の焼いた線と私の指紋を同じ流木に行った...(一つの作品がギャラリストの彼女に売れた)


ロジャーとシルヴィアはノフォークに美しい家をつくった。そこは本への愛や、たくさんの友人の作家の作品のコレクションが溢れていたし、シルヴィアのピアノの演奏する音が聞かれた。ロジャーは独創的な芸術家であり、すばらしい先生だったけれども、なんといっても良い男でありとても愛された男だった。


リチャード=ロング(Richard Long


ロジャー=アックリング(Roger Ackling芸術家;1947年8月11日生まれ;妻の名はシルヴィア(Sylvia);2014年6月5没



原文 THE INDEPENDENT  2014/06/19






参考リンク

メディア
THE INDEPENDENT/ News /Obituaries
The Gurdian / Roger Ackling Obituary 

学校
Chelsea College of Arts blog 2014/6/12
Chelsea Space Blog

ギャラリー
Ingleby Gallery / Roger Ackling
Annely Juda Fine Art /Roger Ackling
Von Lintel Gallery / Roger Ackling

作品アーカイブ
TATE / Roger Ackling
artnet / Roger Ackling
British Council /Roger Ackling

映像
vimeo / Roger Ackling. Inside Out:Outside In






追記(2016/20/01) 
個人的な思い出話も一つ書いておきます。



私とロジャーの思いで: 「テントを立てる話」


大学二年生の時、前期末の口頭試験が行われた直後だった。スカルプチャーメインだったのにペィンティングなどいろいろ試しているときだったので一貫性のなさを他の先生に酷評されて悩んでる時だった。おまえはアーティストなのかペインターなのか!はっきりしろみたいな感じで。

ぼくがチェルシーにいた時には、ロジャーはかつてはヘッドまで務めたチェルシーの役職からは引退していてチュートリアル講師として来校していた。

自分のスタジオでパーソナルチュートリアル(注1)でロジャーと1対1で話すことになった。

私「コンセプチャルアートを作ってきたが、今回はペィンティングを描いてみた。君の考え方はペインターじゃない、全然わかっていないとDave Beechにけちゃんけちょんに言われて凹んでいる」

ロ「あー、この時期のアセスメントではとにかく厳しく評価するんだよ気にしすぎないで。」

私「自分の中では作品それぞれは関係があると思っているのです」

ロ「なるほど。これはいいアドバイスではないんだけど、君はテントをつくりたいんだろ?」

私「え?」

ロ「君はペグを打ってるんだ、ほら テントを立てるときに地面にペグを打つだろう?」

ロ「君の作品それぞれが ペグみたいなものなんだ」

ロ「大きなテントを立てるためにたくさんのペグを打ってるんじゃないかな」

私「(涙)」


でも、俺みたいに単純な奴だと これだけでロジャーだけは俺の事分かってくれた―! みたいになる。話せばスケールが大きくて優しくて、圧倒されますね。癒されるというかパワーをもらえるというか。

まあ ロジャーはみんなにペグの話をしてるんだけどね!(笑)

美術学科の学生は、毎週のように先生や美術家とチュートリアルという個人面談みたいなのをするんですが、やたらコンセプトとかを話させて褒めまくる人、申し訳程度の関心しか私の作品に示さずに自分の作品についてのみ饒舌な人や、やたら質問して自分の解釈を私にぶつけて討論するとかそういう人が多いかな。ロジャーの場合は、にこにこしてて何でも聞いてくれるんだよね。何言っても許されるというか肯定感というか。凡庸な表現だけどオーラがすごいんですよ。感化されちゃうの。まあ本人もそれを楽しんでるっぽいけどね。学生によって、ステージによって必要なアドバイスは異なると思うのだけど停滞してるときには最高の出会いだったと思いますね。

僕の当時の彼女のフラットメイトも元生徒で、峡谷に建てられたロジャーの家(注2)に泊まりに行ったりしてた。ただ、ロジャーのスコットランドの家がロンドンまでめちゃくちゃ遠いの。おじいちゃんが電車で通勤する距離じゃないのよ。ロンドンまで4時間くらいかかるんだっけか。ロジャーが現役だったころは、アーティストになりたいならペィンティングを止めろが口癖の怖い厳しい先生だったとも聞くけどね。日本を旅行するのが好きで、古民家でお年寄りと話をしてる写真とかそういうのが検索すれば出てくるかな。

みなさんに比べれば、たいしたエピソードはないんだけど、この時のことを思い出すといまでもぼくは泣けてしまう。すべてを受け入れてくれて肯定してくれるような言葉と態度だった。ランドアートをやりたくなったのは、このロジャーの人間的なスケール感に感化されてしまったからだと思う。

うちの卒展にこの文章を書いたロングさんもロジャーがつれてきてたけど、ランドアートのアーティストって素朴でみんなかっこいいんだよね。着古したチェックのワーキングシャツが似合う感じっていうか。


注1:パーソナルチュートリアルというのは何かというとFine Artの学生は、週に一回来校するプロのアーティストと1対1で議論することができる。イギリスの大学のファインアートの授業というのは、週一のクラスのミーティングでのプレゼンや議論、あとはこのパーソナルチュートリアルしかない。実技の指導などは無い。高い学費はこのために払っているようなものである。
https://www.archdaily.com/154007/ackling-cook-bothy-reiach-and-hall-architects