2009年7月14日火曜日

「Relational Aesthetics」 by Nicolas Bourriaud

Nicolas BourriaudのRelational Aestheticsは、日本語だと「関係性の美学」として知られている90年代を代表するアート本です。残念ながら、日本語訳はまだありません。ブーリオが書いたエッセーをまとめ直した都合で同じ事が何度も言い直されるなどよくまとめられた本ではないので、ART THEORYとしては役不足なのですが世界のアート関係者はみんな知っている、学生は卒論のために読むので卒論提出前に品切れになるという、初版から10年以上経ちますが、アート本では珍しいベストセラーです。私が読んだ英語訳の内容を簡単に説明するならば、直接的じゃないコミュニケーションが横行して、その不足を「補完」する場としてのアートが機能し意味を持つことが90年代のアートの特徴であるということです。ティラヴァーニャの作品が根拠になっております。

しかしながら、Claire Bishopは、その「場」に生じたという観客の関係性について「いったいどんな関係が出来たって言うんじゃい?」、「ピースフルな場って本当に民主的?」とAntagonism in relational aestheticsで突っ込みを入れております。Santiago Sierraのようにセンセーショナルで悪意に満ちた「場」をつくることによって、アートの批評性という重要なテーマを表現しているアーティストもいるじゃあないかと、諸手をあげて理想化されてしまった「関係性の美術」を批判しています。

本人もいろんなインタビューで語っているように、Relational Aestheticsは90年代のアートの分析と彼の理想が入り交じった感じなので、世界中に批判や勘違いがはびこってしまった。今現在は修正した認識を持っていて、TATE ModernのALTER MODERN展や最新の著書「The Radicant」で示したように、グローバリゼーションをアートを通して表現する必要性に関心がシフトしているようです。